楽しい時間は、過ぎるのが早い。
特に、盆と正月。
長い連休もあっという間だ。
私は盆暮れ正月を、実家で過ごすことが多い。
どちらかというと、
妻の実家の方が落ち着くから不思議なものだ。
それでも、初めのうちは緊張した。
(そこは、世の男子と一緒である。)
なんせ、妻のお義父さんは大工さん。
典型的な、職人気質。
背中でモノを語るという、
いわゆる、寡黙な男である。
ちなみに、趣味は熱帯魚鑑賞。
自宅には、観賞用の熱帯魚ルームもある。
かつては、体長70cmもあるアロワナ※1を
飼っていたいた程である。

一方、私と言えば・・・、
その対極にいると言っても過言ではない。
余計なことをペラペラとしゃべり、
楽しければそれで良いという感覚の持ち主。
飼ったことのあるペットといえば・・・、
シーマン※2くらいなもんである。

全くタイプの違う二人。
だから、結婚の挨拶の時は緊張した。
今から、8年程前の話である。
男ISOJIN、勝負の時。
勝負スーツ※3で身を固め、戦闘態勢につく。
寡黙なお義父さんに、少々緊張気味の私。
このただならぬ雰囲気に、
ご家族の方々も察しはついていたと思う。
私:「娘さんを私に下さい。」
ベタなセリフだが、渾身の力で懇願。
しかし、すぐに返事は返って来ない。
しばし、続いた沈黙時間。
バクバクバクバクっ・・・。
信じられない程、心臓は脈を打つ。
今にも、心の臓は飛び出んばかり。
もちろん、口の中はカラッカラ。
(もう、我慢できましぇーーーーん!!)
正座した足が、痺れを切らしかけたその時、
ついに、寡黙なお義父さんが口を開いた。
父:「お前(妻のこと)、いくつになった?」
妻:「25歳だよ。」
父:「そうかぁ・・・。」
妻:「・・・。」
父:「まぁ、えぇ歳だな。だったら、仕方ねぇな。」
妻:「ホントに・・・。」
父:「あぁ。」
私:「ありがとうございます。
娘さんを大切に預からせて頂きます。」
お義父さんは細い目をより細くし、
お義母さんはその目に涙を浮かべていた。
そして、そのまま妻の実家で一泊した。
ザクッ ザクッ ザクッ・・・。
翌朝、目を覚ますと、
庭の方から何やら物音が聞こえてくる。
定期的に刻まれる不気味な物音。
(うす気味悪いなぁ。)

私はその音の正体を確かめるために、
玄関から外を覗き見た。
そこには、なんと・・・。
((((( ;゚Д゚))))) ガクガクブルブル・・・。
お義父さん。
幽霊の正体見たり枯れ尾花 。
(なんてことはない。)
庭いじりが好きなお義父さんが、
スコップで土を掘っている音だった。
安心した私は、
お義父さんと軽く会話を交わす。
私:「おはようございます。何を植えてるんですか?」
父:「今朝、アロワナが死んじゃってな・・・。」
私:「へっ・・・??」
傍らのバケツの中には、冷たくなった
お義父さん自慢の70cmのアロワナが・・・。

((;゚Д゚;;;))))ノノ ヒョェェェーーーーーー!!
なんと、アロワナのお墓を作っていたのだ。
おそらく、娘が嫁に行くということで、
気が動転していたのだろう。
昨晩、水槽のふたを閉め忘れ、
アロワナが水槽から飛び出してしまったようだ。
そして、アロワナはそのまま息を引き取ることに・・・。
(なんてこったい!!)
大切なものを、
二つも同時に失ったお義父さん。
私には、かける言葉が見つからなかった。
( ´_ゝ`)ノ・・・・。
黙々と穴を掘り続けるお義父さん。
私は黙ってそのお手伝いをするしかなかった。
お義父さんとの初めての共同作業。
その時間は、とても長く感じた。
≪イソジンのよく解る用語解説≫
※1 アロワナ・・・
淡水域に生息する肉食の古代魚。
小型の魚類・昆虫などを捕食するため、
飼育には結構なお金がかかる。
ちなみに、売買金額が百万円を超えるものもあるらしい。
※2 シーマン・・・
ドリームキャストの人面魚育成ゲーム。
20世紀後半、禁断のペットとして、
日本中にシーマン愛好家が増殖した。
私もシーマンに癒されていた口である。
※3 勝負スーツ・・・
男には絶対に負けられない戦いがある。
そんな時、勝負スーツは欠かせない。
但し、メンテナンスだけには気をつけたい。
詳しくは「あしたのジョー」をご覧下さい。
(注)ISOJIN Blogは架空の物語です。過去、あるいは現在において、たまたま実在する人物、団体、出来事に類似していても、それは偶然に過ぎません。
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