ヤッターマン

そうだ、東京　行こう！













そう決心したのは3年ほど前のことである。

夢を求め、転職の決心をした。

私がやりたいことは東京でしか出来なかった。

初めての転職。

精神的に揺れ動くことがあったが、
第一志望の会社に合格することができた。

ぶたもおだてりゃ木にのぼる。



私は完全に浮かれていた。

自然と勝利のポーズをしてしまう自分がいた。













ヤッター　ヤッター　ヤッターマン　である。



東京勤務だと思っていたが、
配属先は大阪だった。

でも、お笑い好きの私にはぴったりの土地だ。

GWに引っ越しは慌ただしく行われた。

尊敬する上司※１が
わざわざ大阪まで車で送ってくれたのだ。

本当に、上司には恵まれている。

いよいよ、新生活のスタートだ。

翌日、早速街に繰り出すことにした。

向かった先は奈良公園。

難波や梅田ではなく、何故か奈良。

妻にはどうやら大阪の空気は
合わないようである。

奈良といえば、セントくんやマントくん。
















残念ながら、その頃はまだこんな
ビックリドッキリメカのようなキャラはいなかった。

近鉄奈良駅に着き、
目についたのがアイス最中の販売店だ。

私は無類のアイス好きだ。

早速、アイス最中を購入し、おもむろに噛みついた。

ゴキッ！

ものすごい音がした。

アイスがカチコチに凍っていたのだ。

アイス最中の表面をよく見ると、
白い米粒のようなものがひっついている。

よくよく見てみると、私のチャームポイント。

自慢の前歯である。

説明しよう！

私のチャームポイントである前歯が
噛み付いた衝撃でポッキリと折れてしまったのだ。

しかも、記念すべき初出勤前日に・・・。

ボヤッキーばりの前歯は
無残な姿に成り果ててしまった。













ボヤッキーな私から前歯を取ったら、何も残らない。

きっと、ドクロベエ様のお仕置きだったに違いない。

呑気に奈良公園で鹿と戯れている場合ではない。

妻が楽しみにしていた奈良公園を早々に引き揚げ、
手当り次第に歯医者を探す。















でも、見知らぬ土地、
しかもまだネット環境も整っていない状態。

歯医者ひとつ探すのも一苦労。

自称ITボーイの私もなす術がまったくない。

とりあえず、電話ボックスを探したが、
このご時世そんなものはどこにもない。

周辺の歯医者のドアを叩くも、
GWなのでどこに行っても閉まっている。

当然、頼る知り合いもいない。

ひたすら、見知らぬ街を練り歩く田舎者。

よそ者の私には大阪の風はとても冷たく、
欠けた歯には痛い程、身に凍みた。

でも、このまま出勤して、
同僚に舐められたらおしまいだ。

この仕事ハッタリも重要な世界である。

私は大切な前歯を半分失い、
自分までも見失いかけていた。

なんせ、アイデンティティが集約された
チャームポイントを失ったばかりである。

男性器を引っこ抜かれたといっても過言ではない。

私のやる気とフェロモンは
前歯から放たれている。















半分になってしまったこの歯では
その威力も半減である。

私は前歯に風を感じながら、
ひたすら歯医者を探すことに尽力した。

歯医者、歯医者、歯医者・・・。

もはや、そこには勝利を確信していた姿はなかった。

そこにいるのは完全に敗者だけだ。

私の視界にはもう歯医者しか映らない。

視界は歯科医で埋め尽くされた。

ちなみに、鹿医ではない、もちろん、死海※２でもない。

≪イソジンのよく解る用語解説≫
※１　尊敬する上司・・・
　　　それは失ってはじめて気付くものである。
　　　転職してみてわかることも多いはず。
　　　たから、転職は計画的に・・・。
　　　詳しくは「デキる上司」をご覧ください。
※２　死海・・・
　　　そこは生物が生活できない場所。
　　　あらゆる生命体が死に絶えるところ。
　　　そこで、ふざけていると痛い目に・・・。
　　　詳しくは「愛・地球博」をご覧ください。



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