五合目に着いてから、最低1時間は体を慣らす。
これ、富士登山の鉄則。
いきなり、登ると高山病だ。
実は、私二週間前の御在所登山※1で
痛い目に合っている。
何としても、高山病だけは避けたい。
一時間程、ストレッチをして過ごす。
いざ、登頂!!
時刻は、午前4時 富士登山のスタートだ。
気がつくと、あっという間に六合目。
(あれっ、富士山って、案外ちょろいんじゃないの。)
私の中で、痛風男への疑惑の目が光る。
(痛風男めっ、ビビらせるだけビビらせやがって!!)
登山前日、痛風男はこんなメールを送りつけてきた。
痛:「昨日また富士登山で死亡者出たね♥」
さすがの私もこれには参った。
こんなメールが来たのが、一回だけではない。
おかげで、登山グッズ※2は完ぺきだ。
(痛風男よ、ありがとう。)
登り始めて50分、
早くも雲行きが怪しくなってきた。
ヤバいっ、積乱雲だ!!
雨粒の間隔が次第に短くなっていく。
痛:「あ~ぁ、誰かさんのせいで・・・。」
(ウルサイわぁ~。)
雨天時の富士山では、早めの対処が必要だ。
何せ、山頂は真夏でも氷点下。
早速、私は新調したPeak A Peakのカッパを着る。
(うん、かっこいい。)
自然に鼻歌を口ずさみたくなる。
Singin' ♪ in the Rain ♪♪
こんな調子で登り続け、
7合目に差し掛かったところでご来光。
ありがたやぁ~!!
(実は、この写真はネットから拾ったものです。)
通りすがりの女性に記念写真を頼む。
ハイ、チーズ。 カシャ
何故か、二人とも明後日の方を向いている。
やっぱり、携帯のカメラは使えない。
(あーぁ、デジカメ持ってこれば良かった。)
気分転換に、携帯酸素(富士さん素)を吸引。
予想はしていたが、全く何も変わらない。
痛風男は「気分が良くなった。」だの、
「視界が晴れた。」だの、うそぶいていたけど・・・。
(やれやれ、話半分で聞いておくか。)
8合目に到着すると、
溢れんばかりの人ゴミが・・・。
富士登山駅伝※3の影響だ。
富士登山駅伝とは、登山しながら
駅伝をするという超過酷なスポーツ。
自衛隊が多かったのも、
この大会に参加するためだった。
そこへ、バッドニュースが飛び込んでくる。
『暴風のため、駅伝中止。』
このニュースは登山者に混乱をもたらした。
おかげで、8合目は引き返す人で大渋滞。
(この大渋滞を待っていたら、確実に凍え死ぬ。)
そこで、私たちは降りしきる雨の中、
おにぎりを頬張り体力をチャージ。
下山出来ないなら、頂きを目指す。
名付けて「引いてダメなら、押してみな」作戦だ。
少し登ると、目の前には気分を悪くして、
吐いている少年が・・・。
私の決断は本当に正しかったのか?
自問自答を何度も繰り返す。
私は立ち止り、痛風男と緊急会議。
痛:「ものすごいことになってるね。」
私:「こりゃあ、さすがにヤバいなぁ。」
私は時計をじっと見つめる。
私:「9時43分、ISOJIN隊、下山!!」
痛:「イエッサー。」
私:「えーーーーーーーーーっ マジで?」
(冗談のつもりだったのに・・・。)
私:「とりあえず、9合目まで行こっ!」
痛:「えっ、なんで?」
私:「あの少年だって登るんだもん。」
そう、先程の少年は吐きながらも
山道を目指し登って行ったのだ。
少年に続き、我らも再び9合目を目指す。
相変わらず、雨は私たちに容赦なく襲いかかる。
吹き付ける山風、突き刺さる雷雨。
冷たい雨は体温をグングンと奪っていく。
9合目にたどり着いた時、二人はさすがにグッタリ。
一方、先程の少年は
父親と今後について真剣に話をしていた。
父:「今日ここで登るのか?明日また登るのか?
お前が選びなさい。」
(厳しいぃぃぃぃぃーーー!!)
少年は悔し涙を目に浮かべ、
歯を食いしばっていた。
(さようなら、少年。オレの屍は拾ってくれ!!)
同士を失った私たちは失意のどん底に・・・。
再び、私の中で迷いが生じる。
思い浮かぶのは、
大雪山のトムラウシ山の遭難事故。
予備日を設けない強行な日程、
午後から晴れると判断したガイドの誤認、
自然の脅威を甘く見た行動。
我々の行動全てが大雪山遭難事故とかぶる。
このまま登っても、大丈夫か?
どうしても、不安を拭い去ることが出来ない。
一方で、男のロマンが私を突き動かす。
再び、重い腰を上げ、てっぺんを目指す。
突風にあおられ、雨は下から降ってくる。
もう、隠れる場所はどこにもない。
気を抜くと、風に体ごと持って行かれそうだ。
頂上まであと200m。
案内の看板を発見する。
この200mが、ものすごく遠い。
空気も薄くなっているため、
息切れ・動悸・目眩が激しいのだ。
3歩進んでは休み、また3歩進む。
ちっとも、前に進まない。
土砂降りで視界も悪く、
頂上がどこにあるのかもわからない。
濡れた軍手に包まれた手は
完全に冷え切って感覚が麻痺している。
(壊死してなければ良いが・・・。)
ガンバレ!! ISOJIN もう少し!!
もう、自分で自分を励ますことしか出来ない。
と、そこに鳥居らしき物体が・・・。
浅間大社奥宮の碑である。
つっ ついに、頂上だぁぁぁ!!!!
時刻:11時37分。
気温:2℃
標高:3720m (山頂は3776m)
時間:約7時間半
私たちの死闘はついに終結した。
その後、山頂の山小屋で休憩し、
コーンスープ(600円)を疲れた体に流し込んだ。
このスープがウマいことウマいこと。
(コーンは入ってなかったけどね。)
ケチな私だが、命には替えられない。
震える体を懸命に温めていた。
でも、私たちには感慨に浸っている時間はない。
まだ、下山が残っているからだ。
相変わらず、小屋の外は暴風に豪雨。
あぁ、先が思いやられる。
前編に戻る → 富士山(前編)
≪イソジンのよく解る用語解説≫
※1 御在所登山・・・富士山に登る二週間前、腕慣らしのため登山。
日頃の運動不足がたたり、大変なことに・・・。
詳しくは「もののけ姫」をご覧下さい。
※2 登山グッズ・・・
富士山は装備がものをいう。
事前の準備は欠かせない。
詳しくは「富士山(準備編)」をご覧下さい。
※3 富士登山駅伝・・・
富士山の麓と山頂を往復する駅伝。
御殿場口登山道と下山道を利用し、8月第1日曜日に開催。
参加申し込みはこちら → 御殿場市HP
(注)ISOJIN Blogはフィクションです。実在する人物、団体、事件には関係ありません。全ての判断は読者であるISOJINマニアの皆様に委ねられています。
0 件のコメント:
コメントを投稿