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2009年8月2日日曜日

富士山(後編)


五合目に着いてから、最低1時間は体を慣らす。

これ、富士登山の鉄則

いきなり、登ると高山病だ。

実は、私二週間前の御在所登山※1
痛い目に合っている。

何としても、高山病だけは避けたい。


一時間程、ストレッチをして過ごす。

いざ、登頂!!


時刻は、午前4時
 富士登山のスタートだ。

気がつくと、あっという間に六合目。

(あれっ、富士山って、案外ちょろいんじゃないの。)


私の中で、痛風男への疑惑の目が光る。

(痛風男めっ、ビビらせるだけビビらせやがって!!)


登山前日、痛風男はこんなメールを送りつけてき
た。

痛:「昨日また富士登山で死亡者出たね

さすがの私もこれには参った。

こんなメールが来たのが、一回だけではない。

おかげで、登山グッズ※2は完ぺきだ。

(痛風男よ、ありがとう。)


登り始めて50分、
早くも雲行きが怪しくなってきた。

バいっ、積乱雲だ!!

雨粒の間隔が次第に短くなっていく。

痛:「あ~ぁ、誰かさんのせいで・・・。」

(ウルサイわぁ~。)

雨天時の富士山では、早めの対処が必要だ。

何せ、山頂は真夏でも氷点下

早速、私は新調したPeak A Peakのカッパを着る。

(うん、かっこいい。)

自然に鼻歌を口ずさみたくなる。

Singin' ♪ in the Rain ♪♪

こんな調子で登り続け、
7合目に差し掛かったところでご来光。















ありがたやぁ~!!

(実は、この写真はネットから拾ったものです。)


通りすがりの女性に記念写真を頼む。

ハイ、チーズ。 カシャ




















何故か、二人とも明後日の方を向いている。

やっぱり、携帯のカメラは使えない。

(あーぁ、デジカメ持ってこれば良かった。)


気分転換に、携帯酸素(富士さん素)を吸引。

予想はしていたが、全く何も変わらない。

痛風男は「気分が良くなった。」だの、
視界が晴れた。」だの、うそぶいていたけど・・・。

(やれやれ、話半分で聞いておくか。)

8合目に到着すると、
溢れんばかりの人ゴミが・・・。

富士登山駅伝※3の影響だ。

富士登山駅伝とは、登山しながら

駅伝をするという超過酷なスポーツ

自衛隊が多かったのも、

この大会に参加するためだった。

そこへ、バッドニュースが飛び込んでくる。

『暴風のため、駅伝中止

このニュースは登山者に混乱をもたらした。

おかげで、8合目は引き返す人で大渋滞

(この大渋滞を待っていたら、確実に凍え死ぬ。)

そこで、私たちは降りしきる雨の中、
おにぎりを頬張り
体力をチャージ。

下山出来ないなら、頂きを目指す。

名付けて「
引いてダメなら、押してみな」作戦だ。

少し登ると、目の前には気分を悪くして、
吐いている少年が・・・。

私の決断は本当に正しかったのか?

自問自答を何度も繰り返す。

私は立ち止り、痛風男と緊急会議。

痛:「ものすごいことになってるね。」

私:「こりゃあ、さすがにヤバいなぁ。」


私は時計をじっと見つめる。

私:「9時43分、ISOJIN隊、下山!!」

痛:「イエッサー。」

私:「えーーーーーーーーーっ マジで?」

(冗談のつもりだったのに・・・。)

私:「とりあえず、9合目まで行こっ!」

痛:「えっ、なんで?」

私:「あの少年だって登るんだもん。」

そう、先程の少年は吐きながらも
山道を目指し登って行ったのだ。

少年に続き、我らも再び9合目を目指す。

相変わらず、雨は私たちに容赦なく襲いかかる。

吹き付ける山風、突き刺さる雷雨。

冷たい雨は体温をグングンと奪っていく。

9合目にたどり着いた時、二人はさすがにグッタリ。

一方、先程の少年は
父親と今後について真剣に話をしていた。

父:「今日ここで登るのか?明日また登るのか?
   お前が選びなさい。」

(厳しいぃぃぃぃぃーーー!!)

少年は悔し涙を目に浮かべ、
歯を食いしばっていた。

(さようなら、少年。オレの屍は拾ってくれ!!)

同士を失った私たちは失意のどん底に・・・。

再び、私の中で迷いが生じる。

思い浮かぶのは、
大雪山のトムラウシ山の遭難事故

















予備日を設けない強行な日程、
午後から晴れると判断したガイドの誤認、
自然の脅威を甘く見た行動。

我々の行動全てが大雪山遭難事故とかぶる。

このまま登っても、大丈夫か?

どうしても、
不安を拭い去ることが出来ない。

一方で、男のロマンが私を突き動かす。

再び、重い腰を上げ、てっぺんを目指す。

突風にあおられ、雨は下から降ってくる。

もう、隠れる場所はどこにもない。

気を抜くと、風に体ごと持って行かれそうだ。

頂上まであと200m。

案内の看板を発見する。

この200mが、ものすごく遠い。

空気も薄くなっているため、
息切れ・動悸・目眩が激しいのだ。

3歩進んでは休み、また3歩進む。

ちっとも、前に進まない。

土砂降りで視界も悪く、
頂上がどこにあるのかもわからない。

濡れた軍手に包まれた手は
完全に冷え切って感覚が麻痺している。


(壊死してなければ良いが・・・。)


ガンバレ!! ISOJIN もう少し!!

もう、自分で自分を励ますことしか出来ない。

と、そこに鳥居らしき物体が・・・。

浅間大社奥宮の碑である。















っ ついに、頂上だぁぁぁ!!!!

時刻:11時37分。
気温:2℃
標高:3720m (山頂は3776m)
時間:約7時間半

私たちの死闘はついに終結した。

その後、山頂の山小屋で休憩し、
コーンスープ(600円)を疲れた体に流し込んだ。

このスープがウマいことウマいこと。

(コーンは入ってなかったけどね。)

ケチな私だが、命には替えられない。

震える体を懸命に温めていた。

でも、私たちには感慨に浸っている時間はない。

まだ、下山が残っているからだ。

相変わらず、小屋の外は暴風に豪雨。

ぁ、先が思いやられる。

前編に戻る → 富士山(前編)

≪イソジンのよく解る用語解説≫
※1 御在所登山・・・
   富士山に登る二週間前、腕慣らしのため登山。
   日頃の運動不足がたたり、大変なことに・・・。
   詳しくは「もののけ姫」をご覧下さい。
※2 登山グッズ・・・
   富士山は装備がものをいう。
   事前の準備は欠かせない。
   詳しくは「富士山(準備編)」をご覧下さい。
※3 富士登山駅伝・・・
   富士山の麓と山頂を往復する駅伝。
   御殿場口登山道と下山道
を利用し、8月第1日曜日に開催。
   参加申し込みはこちら → 御殿場市HP

(注)ISOJIN Blogはフィクションです。実在する人物、団体、事件には関係ありません。全ての判断は読者であるISOJINマニアの皆様に委ねられています。

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